ブログ「子育て科学日記」

カブキ者

昔から、歌舞伎には行ってました。
京都に南座という伝統の芝居小屋があり、そこで年末に行われる「顔見世興行」に毎年連れて行ってもらっていました。
が、残念なことに覚えているのは、客席で頂くお弁当お菓子のセットと、劇場前のニシン蕎麦の美味しさだけ……(情けない)

長じて、関東に住むようになり、時おり歌舞伎座や国立劇場で歌舞伎を見るようになりました。さらに近年は江戸検を受けるようになり、「講座付き」の歌舞伎鑑賞会などにも行くようになりました。

だいぶ背景も理解したし、面白さもわかったし、屋号も大体覚えて役者さんも顔見知り?!になりました。

でも、やっぱり歌舞伎は「遠い世界の伝統芸能」だと思う自分がいて、どちらかというと、頑張って理解しようと努力してる自分がいました、今日までは…

今日、初めて「コクーン歌舞伎:四谷怪談」を見ました。

最初のシーンから、度肝を抜かれました。
スーツを着たサラリーマンが鞄を持って、舞台を整然と歩いている!!
それが違和感なく江戸の街の喧騒と溶け込んでる!!

そうかそうだよね。江戸は地続きの東京だよね。歌舞伎は江戸から現代につながっているんだよね。

四谷怪談の舞台は、江戸時代に中村座で上演されてた鶴屋南北演出に端を発します。
当時実名を出した舞台は禁じられていたので、吉良を高師直、浅野を塩治判官と偽名にして赤穂浪士の討ち入りを暗喩して取り込むなど、巧みに当時のスキャンダルを織り交ぜながら、裏切られたお岩さんの悲哀を描いています。

でも串田和美さんの演出では、その原作を踏まえつつも、そこここにサラリーマンが登場して、背景の人々の一部としてうごめいているのです。江戸の人々が表情豊かに笑ったり嘆いたりしてるというのに、現代の東京人は、常に無表情で舞台を上手から下手へ、下手から上手へと一列に移動します。
でも途中からだんだん彼らの動きは変わり、最初は交わらなかった江戸の町民とまじりあって一団となり、意思を持っているが如く大きなうねりとなって動き出す場面へと移行していきます。ここで、私は鳥肌が立ちました。
そしてさらに終盤になって、あるとても大切な一瞬、獅童さん演じる伊右衛門と現代人サラリーマンの一人がしっかりとみつめあうシーンがあります。
長い時間見つめったのちにふっと視線を逸らす現代人。そして伊右衛門は自分の身の振り方を決めるのです。

そうだった、歌舞伎とはそもそも出雲から出てきた異形の集団舞踊から始まり、時代の世相を背景に、河竹黙阿弥や鶴屋南北といった天才脚本演出家を得て、時代の寵児の役者達が自由闊達に次々形を変え演じ継がれてきた「流行演劇」だった!
その流れが今、串田和美という演出家に繋がり、獅童さんや七之助さんといった新しい世代の千両役者とタッグを組んでいるんだ、と思ったときにストンと落ちました。

スーパー歌舞伎の猿之介さんも素敵でしたが、今日の四谷怪談は、「人の業」をあのスーパー歌舞伎と同様、これでもかの派手なおどろおどろしさとして演出するんだろうな、という私の予測を見事に裏切り、むしろ、現代の一見冷徹に見える人たちの中にある正義感が、江戸の人々の理不尽さを浮き彫りにしていくという、別な意味でゾッとする演出で感激でした。
いやあ、現代のカブキ者達の素晴らしい流行演劇に完全脱帽いたしました~♪ 素晴らしかったです!

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