ブログ「子育て科学日記」

氏か育ちか

近々開催される講演会の打ち合わせで、テーマにしようとしていた「氏か育ちか」と言う言葉は中高生(講演会の聴衆)にとっては古いなじみのない言葉で、ピンとこないのではないか、と言う意見が出た。たしかにそうで、「氏」なんて使っているくらいだから、この言葉は相当古いものであることは間違いないのであろう。しかし良く考えれば、この内容は、現在の科学の粋を集めて(私を含め)取り組んでいる命題そのものであって、昔の人の真理を見つめる目の鋭さに驚かされる。 今風に理解しやすく言い換えるとするならば、「氏か育ちか」というのは「人間の人格を規定するのは生まれる前から備わっている「遺伝子」なのかそれとも生まれたあとに影響を受けるさまざまな「環境」なのか」という命題である。1980-1990年ごろには遺伝子解析花盛りで、すべての遺伝子を解読して人間を人間が完全制服したかのような風潮にまでなっていた。 しかしその後10年ほどの間に、遺伝子だけでは説明できない人間の機能の数々が明らかにされ、遺伝子とその周辺、すべてを含めて「エピジェネティクス」という言葉が用いられるようになってきた。その中には人間がさらされるさまざまな環境、他人とのコミュニケーション、それによって受ける感情の変化(喜び、怒り、ストレス)などもふくまれるであろう。そういう複雑な因子が関わって初めて、一人一人異なる人間の個性が形成される。 そんな深遠な議論を含む命題を、「氏か育ちか」という簡潔にしてムダのない言葉で言い当てている古人に、改めて畏敬の念を覚えるのである。

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