ブログ「子育て科学日記」

伝える、ということ

発達障害や心の問題などを専門にし、その科学的な解明を目指している立場上、私はいつも「ヒトがヒトである」ということは何を持って他の動物と明確に区別されるのか、というようなことを命題に考えているわけである。そんな観察眼で見ていると、コミュニケーション、つまり自分の心を相手に伝える能力こそヒトのヒトたるゆえんなのではないかという結論に達してくるのである。その、本来ヒトが一番磨かなければいけないスキルが今、どんどん衰退していることは間違いないと思う。それはヒトがヒトと交わる機会が激減してきたからに他ならないだろう。良く言われることではあるが、メールや電話、ファックスやその他の通信手段は早く正確に情報を伝えることはできるが、そこに送り手の心がこもっていなければ、それはたとえば犬が3+5を8回吠えて答えるのと何ら変わりない。よく若い子の問題が取り上げられるが私はむしろ今の子育て世代の母親にこそ問題があるように感じられてならない。社会にも出ず自分の家族だけを見つめて生活している母親にとっては、自分の家族の利益だけがすべてで、他者との関わりなど意味を持たないと考えているし、とても未熟で短絡的に見える人が多い、、、というのが私の実感である。たとえば学校で子どもに不利なことが起こったと聞かされた時に、一度その問題をじっくり見据えて当事者や学校からきちんと事情を聞いてから原因や解決法を考える、というプロセス抜きに、いきなり怒りの感情だけを学校や当事者の相手にぶつけてしまい、結局子ども自身を追い込む結果になっているケースは現実としてとても多いのである。 春、入学や就職など子どもがお祝いをいただく機会も多いだろう。そんな贈り物をいただいたときに、時間をおかずにその手で子ども自身にお礼の手紙をしたためさせること、これは古来日本で行われてきた早く正確な情報伝達の手段であるのに、本当に皮肉なことにこういう一番大切なしきたりはどんどん廃れているし、親自身そんなことに気を配らなくなってきている。だからヒトは今後進化するどころかに退化または絶滅の道をたどっていく、という説も本当かもしれないなあ、なんて悲観的に考えてしまうのである。

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