ブログ「子育て科学日記」

こどもが好き

「子どもが好きなんですぅ。だから小児科医になりました」なんて自己紹介する新人研修医に昔から反発を感じていた。実家が小児科の開業医だったこともあり、患児の状態の急変に、夜中でも、出かける予定の休日でも、いつでも飛んで行かなければならない小児科医という職業を熟知したうえで選択した自分があるからである。子どもを「生命体」として認識して、その内部でめまぐるしく起こっている変化を見逃さない冷静な目がなければ、小児科医は絶対に勤まらない。「情」が入ってくるのはそれがしっかり出来てからのことなのである。その気質は今もしっかり持ち続けており、私は子育てだって教育だって「子どもが好き」だけでは安易に語れないと理解している。
ところが先日、「子どもが好きとはどういうことか述べなさい」という趣旨のお題の小論文を採点する機会があり、たくさんの大学生の作文を読ませてもらった。残念ながら「私は子ども達の太陽の笑顔に癒されます!」なんて書いた子が圧倒的多数であり、当然この子らは低~い評価に甘んじていたのだが(私に当たったのが不運!)、一人「私自身は子どもが好きか嫌いかなどという短絡的な評価は出来ない。なぜなら子どもとはいえ一人の人間でありそれぞれの個性があるのであり、安易に「子どもだから好き」と言っしまう事は人格を無視していることになるからである。」と書いている学生がいて、思わず拍手したくなった。
この考え方が、日本の社会に決定的に欠落している考え方だと思うからである。子どもであっても人格があり個性がある。それを責任を持って見ていくこと、そしてよりよい方向に導いていくことが大人の役目である、と認識している日本在住の大人のなんと少ないことか!「小さくて柔らかくて天使みたいで大好きっ!」とべたべた機嫌を取り、金品を使い、満員電車でわれ先にダッシュして「子どもに」席を取ってあげる大人がやたら目について、「ああ~これでまた日本の将来が暗雲に閉ざされて行く~~」と嘆いているのは私と、この作文を書いた学生くらいなんだろうか。

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