ブログ「子育て科学日記」

人の話を聞く

星先薫さんという方の本(一日千笑、苦あれば楽あり)を読む機会があった。自閉症という診断名を持つ娘さんの学習(公文式に幼児期から通った)と日々の生活の記録である。
正直、娘さんの障害についての記載は誤解を招くような部分もあり(私に言わせれば生まれつき高機能自閉症、つまり知的障害としては軽度のレベルの方、としかいいようがないのであるが、星先さんは中度の自閉症であったのが、公文で軽度に引き上げられたと表現されている)、困ったなあという部分もあるのであるが、でも、それを凌駕して、ご両親の強い愛情に裏打ちされたいつもポジティブな働きかけには、大変感動した。

公文式を初めとする早期教育に関わる機関そのものの発想や展開にはきっと別に大きな問題はないのだと思う。
現実に公文の学習法なども、私自身は素晴らしいなあ、と評価できる点は多々ある。
障害のあるお子さんにも、脳に刺激を与えて発達させるための効率的な学習形態が作られているので、うまく使えば本当に役に立つと思う。
ただ、多分問題は習わせている保護者の心持ちなんだと思う。
学習だけ伸ばしたって絶対にうまくいかないことは、特に対人認知に遅れを持つ自閉症児の場合明らかである。
親の悲壮な思いを一身に受け、数学オリンピックに出られるほどの能力を獲得したとしても、人と交われず部屋に引きこもっていてはなんの役にも立たない。

生まれつき、人に興味を持ちにくい。
持ったとしても上手に関われない。
その部分を引き上げていけるのは、周りの人間、特に保護者の粘り強い関わり、星先さんがおっしゃるところの、あきらめないで決して責めない一貫した態度なんだろうな、と思った。
さらに星先さんは、人の話を聞く人である。
誰にでも娘さんのことを相談し、人の話をよく聞き、そこから自分なりのサマリーを作っていく。
こうやって人と関わることを自ら手本となって示せる母の子だからこそ、娘さんは不安なく大きくなられたのだろう。
この部分を(公文の学習が障害を治す、などというキャッチーな部分ではなく)、多くの、同じような子を持つ親御さんに学んでほしいと切に願う。

何気ないことのようでいて、これが出来ない人が今はとても多い。
診療をしていても、話をとにかく聞いてくださる保護者の方の子どもは、良くなりやすいことは事実だ。
でも、残念ながら、いくらこちらが客観的事実から現状の課題と今後の予想、そして考えられる治療の手立てをお話していても、自分の耳にちょっと痛い話をされると、「先生はね、こんな子を持ったことがないからそんなことが言えるんですよ!私は私の考えでこの子をなんとかします!」と言い残して帰っていく方も相当数いる、そして子どもはこじれていく。悲しいがこういう親子にはどうすることもできない。

いろいろと教えられる一冊であった。

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