ブログ「子育て科学日記」

おめでとう!

最近、私が大学にいたときの出席番号一つ前の彼が、人類の歴史に残る大発見をしてニュースなどでよく紹介されている。
人間の皮膚の細胞から、どんな臓器にでも分化させうる可能性を持つES細胞を作り出すことに成功したのだ。
私も一時ES細胞を扱っていたので、その可能性の奥深さは良く理解できる(つもり)だ。本当に素晴らしいことだと思う。
そしてその彼と同級で、さらには出席番号の関係でいつもペアになっていただき、特に解剖実習ではどれほどお世話になったことか・・・(ありがとうございました!)
なんとなく、自分までえらくなったような気がして、最近回りの人々に吹聴して回っている。まさにカンチガイである。

ずっと以前研究をしていた筋ジストロフィーなどは、この技術を使えばずいぶんと治療の道が開けるだろうと期待できる。
ただ、今私の研究の大きなテーマである、自閉症を含む発達障害は、実はこの技術だけでは、多分治療という道は開けないだろうというのが事実なのである。
なぜならまず、自閉症は脳の中の複数の神経細胞のランダムな機能障害であると認識されているからである。
例えばシャーレの中のES細胞を使って、神経細胞の中のある種のものにまで分化させることは割合簡単にできる(私も数年前までやっていた)。
しかしそれを人間の脳の中で、しかも患者さんでたまたま欠けている神経のつながりを察知してそれをオンデマンドでつなぐ、というところまではどう考えても今世紀中には不可能に近いことだと思う。

そんな事実を目の当たりにして、では、今私ができることはなんだろう、患者さんと家族の方を少しでもhappyにできることはなんだろう、と考えたとき、基礎研究とは遠くかけ離れた、「人と人と人と人と・・・・を結びつけてその患者さんを守り、支える」というものすごくヒューマンな方法にたどりついたわけである。

今、「本当に」基礎医学の技術なんか全く使わずに、「言葉と行動」だけで患者さんや家族がhappyになるのを見ていると、「医学」ってなんだろうと考えさせられる。
もちろん基礎研究も大事だけれど、本当は、「人と人とが繋がること」が医学の基本で、「一人ひとりの患者さんを本当に大切に思ったときに、初めて基礎研究のツールを使う必要性が出てくる」ということは、いつも決して忘れてはいけないことなんだと思う。

アメリカがその彼の技術を応用して今すぐにでも臨床応用をしようとしていると報道されている。
アメリカにいたこともあるので、その熾烈な戦いは良くわかる。
トップジャーナルに掲載される論文をつくること、一瞬でも早くプレスリリースされることを目指すこと、なんとなく医学基礎研究の現代の方向性は「人」を無視した「争い」に見えてきてしまうのはどうしてなんだろう。
彼がよく取材で話している、「患者さんが幸せになるために」という基本はぜひ忘れないで、これからも身体に気をつけて頑張ってほしいと思う。

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