親育て
「子どもの精神心理外来」って一体何をしているの?どんな子どもが来るの?というような疑問を持たれる方もいらっしゃるとは思うのですが、実際に私の外来の診察室に入ってくる人は、意外に大人が多く、日によっては子どもよりも大人の人数のほうが多かったりするのです。たとえば不登校の子の場合、子ども自身は自分の部屋にこもりっきりだったりするので、外来にはその子を心配する親御さんのみが通ってこられる場合もあります。あるいは、子どもは不登校から抜け出して学校へ通えるようになっても、親御さんのみが投薬を受けにきたり、親御さん自身の心の悩みを打ち明けにきたりされる場合もあります。もちろん子どものときからずっと診ていていつのまにか成人された患者さんも引き続き小児科にかかられてくる場合もあり、つまり、私の外来には意外に大人の方が多く通われているわけです。実は私はこの部分が一番大事な私の役割である、と認識しています。子どもは経済的にも法的にも18歳ないし20歳になるまでは否応なく保護者の下で生活しなければなりません。保護者の考え方に強く支配され、身動きがとれず、でも家を出るわけにはいかない、羽をもがれた小鳥のような子どもたち。強く反抗することもできずに押し黙ったままで、不適応の症状をたくさん出して苦しむ子どもたちを見ていると、私たちが本当に目指さなくてはならないのは「親育て」なのではないかと思ってしまうのです。実はこういう子どもたちの親御さんたちは、決して子どもを苦しめようと思っているわけではない、むしろ良かれと思って、または罪悪感を持って、子どもに接している場合が圧倒的に多いのです。その心のすれ違いが一番悲しいな、と思います。楽しく親子が心を通わせられるように親業心得みたいなものを普及させられれば不幸な親子を減らせるのにな、と実感しています。実際、親御さんが変わると子どもは本当に治るのです。私の外来に足を運んで私のつたない話を聞いてくれて、変わってくれる親御さんたちがそれを次々と証明してくれています。大げさですが、こういう時私は、私という人間が、社会に何かを還元できていると実感することが出来て、本当に幸せになります。ほんのささやかな力ではありますが、こんな役割を自分に与えられたことをとても感謝するのです。